Mたちの逆襲 -8
貴之は最後のチェックとして、目立たない軽トラックをレンタルし、一人で先ほどのホテルへ戻った。
そして、入り口の見える位置に車を止めて、夜を待った。
暗くなってから、一台の大型ワゴン車がホテルの前で停車した。
しばらくすると、二人の屈強な男が大きなトランクを持ってホテルに入って行った。
それから十分もしない内に、彼らは大きなトランクを引きずりながら出てきた。
「全く、もう…完全に眠らせてくれたのか思ったら、突然目が覚めたのか、暴れ始めて、お陰で結構てこずったぜ。今回は随分派手に抵抗するスケ(女)だったな。何発もパンチを食らわせなきゃ静かにならなかったぜ」
「全くだ。こんなことは初めてだよ。だけど、これだけのことで、あんなに凄い報酬を前払いしてもらえるなんて、こんなに美味しい仕事はないぞ。それと、『アクサル様へ』というメモ書きも付けられてたから間違いないだろうし…早く港に行って船に乗せちまおうぜ」
そうぶちぶち文句を言いつつ笑いながら、二人は大きな荷物をワゴン車の荷台に運び入れていた。
やがて、そのままワゴン車は静かなエンジン音を響かせながら、ホテルを離れ、闇の中に消えていった。
貴之はその時も、ホテルの向かい側に駐車させていた営業用軽トラックの中にいた。
開けたままの窓から聞き耳を立てていた貴之は、彼らの呟きを聞いていたので、これで全てが元に戻るだろうという確信があった。
そして、冷たい秋の夜風を感じながら、ゆっくり起き上がると、車を走らせて帰途に着いた。
瑞江様は元通りの、女王としての瑞江様に戻ってくれるだろう。
そして、彼と美雪はいつまでも彼女の奴隷として生きるだろう。
そのように、彼は再びMとしての生活が出来ると思うと、涙が出るほど嬉しかった。
美雪は彼をSに仕立てようという企みをまた始めるかもしれない、とも思った。
確かにSをしている時に、全く愉しんでいないと言えば嘘だった。
だからといって、自分のMの立場を奪われてはたまらない。
また、何かの折に、美雪に頼まれることがあるかもしれないけど、もうその手には乗らないぞ…二度とSになんてなるもんか、と心に誓っていた。
(了)
あとがき
ご愛読、有難うございました。
お楽しみいただけましたでしょうか?
瑞江は再び女王として活躍することと思いますが、
沙枝子はアクサルの元で奴隷となり、かなり厳しい調教を受けると思われます。
そして、美雪と貴之は、Mとしての境遇を動機とした協力者であることを越えて、それ以上の愛情を抱くようになる可能性もありますね。
これを読み終わって、彼らのその後をご想像いただければ、書く者の幸せは、これに勝るものはありません。
尚、ご感想などいただければ幸いです。 鵺